「トンネルを抜けるとトンネルであった」
「かごしままで何回トンネルとおるの?」
昔母にそう尋ねたことがある。
熊本から祖父母の家の鹿児島に帰る時だったと思う。
「20回くらいかな。」
母ではなく父がそう答えた。
子供の頃、高速道路が好きだった。
父のハイエースに乗って、暗い道を走る車の窓からずっと山並みを眺めていた。
トンネルを通る時のキーンと響く音も、
不気味にすら感じるオレンジ色の照明も、
どこまでも続く山並みの景色も
ワクワクして仕方なかった。
大袈裟ではなく、非現実の世界にいるような感覚が好きだった。
少し年をとり、高校生くらいから、助手席に座ることが増えた。
高速道路を運転する父の横顔を見ながら、この道を運転するのはどんな心持ちなんだろうと、
そんなことを思いながら、やはり窓の外を眺めていた。
当時の自分には、運転席に座る父の姿が、いつもより大人びて見えたことは鮮明に覚えている。
いつか自分がこの道を運転する時がきたら、一体どんな気持ちになるのだろうと、そんなことをいつも考えていた。
今日、初めて自分1人の運転で鹿児島に帰ってきた。
昔ずっと通ってきた道を、ワクワクしながら通り過ぎたトンネルを、
子供の頃を思い出しながら運転してきた。
23回トンネルを通って、祖父母に会いにきた。
特別感動したわけでも、
思い出深かったわけでもない。
けれど、昔ずっと想像していたシチュエーションを経験するというのは、言葉にし難い感覚になる。
父親も、こんな感覚で車を走らせていたのかなあって。
そして、次この道を運転する時、誰かを隣に乗せているのかなって。
もしそうならどんな気持ちなんだろうって。
また、子供の頃のように未来の自分に想いを馳せながら。
色んな体験を大切にして。
未来に思い出して幸せになれるようにしたいなって。
2時間のドライブのうちにそんなことを考えていました。
それでは今回はこの辺で。